生きている植物素材に、盆栽という空間を紡いでいくのが愛好家の仕事です。生き物相手なので決して独りよがりな作り方はできません。植物の生理にかなった方法で、その生長を導きながら樹形をつくっていきます。いつ頃どんなふうに芽が出てどう伸びるのか、などという植物生理も十分に理解しておく必要があります。
その上で、素材の魅力を最大限に引き出すことのできる姿を考えます。素材を手に入れる際には、どこか惹かれるものがあって入手を決断しているはずですから、その魅力を精一杯引き出すように努力するのです。
長所をクローズアップさせるには、他の不要な部分を切り捨てるのが一番早道です。とくに盆栽のような凝縮感を大切にする世界では、見る人の視点がぼやけてしまわないように、強調する部分と省略する部分のメリハリをはっきりさせなければなりません。何かを省略しなければならないということを覚えておきましょう。ここは生かし、ここは捨てる。その見極めがポイントです。
樹形デザイン
こうでなければならないというわけではありませんが、盆栽らしい樹形をつくるための基本があります。基本を知っておけば応用を利かせることができるので、まず覚えておきましょう。
(1) 幹は上に行くほどだんだん細くなる
(2) 左右対称にしない
(3) 幹のゆすりは下ほど大きくなる
(4) 幹の曲がりの外側に枝が出る
(5) 左右交互に枝を出す
(6) 枝の間隔は上に行くほど狭くなる
具体的には、まずその素材が生きていた環境を想像します。畑でぬくぬく育ったなんて想像はいけません。高山の崖や、海の孤島、山裾に広がる平野など、自然の風景をイメージするのです。そこには風があり、太陽の射す方向があり、雪や雨が降ります。川が流れ、鳥も飛んでくるでしょう。その環境の中で、この素材はどういう育ち方をしてきたのか、そして、今はまだ若い素材だけれども、いずれどんな老大木に育っていくんだろう、と考えるわけです。
特に樹の動きは重要です。どの方向へ向いて幹や枝が動くかという点に注目します。それは結局太陽の向きであり、風の向きであり、風の動きでもあります。動きのない盆栽はやはり不自然に見えます。人工物という感じが消えないのです。左右対称の樹形を嫌うのもそのためです。たしかに盆栽は自然そのままの植物ではなく、人の手を加えます。でも、できるだけ自然に見えるように、極力人工臭さを排除します。人為を加えてなお自然に見えること、これが盆栽の基本です。
ところで、盆栽が自然と同レベルなら、あえて盆上に取り上げる必要はなく、自然そのものを見ていた方が早いってことにもなります。盆栽が存在価値を持つためには、どこかで自然を超えなければなりません。ここが盆栽の難しいところでもあり、すごいところでもあるのですが、自然の風景は目に見えるものすべてなのに対し、盆樹は樹が1本しかないがゆえに、そこに思い描ける風景に限りがありません。樹の出来映え次第で、無限の風景が思い描けるのです。これこそ、盆栽が芸術と呼ばれる根本でしょう。
1枚の絵を描くように、雄大な風景を盆上に描くことができれば、きっと素敵な盆栽になります。人の手を加えてさらに自然らしさを感じさせる……これが究極の到達点です。