五葉松づくりで有名だった故・阿部倉吉翁は次のように語っています。「空間には美しさがあります。盆栽は丸くつくってはなりません。枝の長短太細、枝分かれ等々、一枝一枝を十分に働かせ、木振り、枝振りを見せてハズミを出すことです」。
倉吉翁はそうした空間の美に対する考え方を『空間有美』という四文字に込めました。
幹模様や枝配りだけを見せるのでなく、枝と枝との間にある『間』を大切にしなければならないとは、多くのプロ作家が言っていることでもあります。間の取り方ひとつで、盆栽の個性が生かされもすれば死にもするのです。
針金をかけて枝を振ったり下げたりするのは、もちろん樹形の輪郭を整える意味があるのですが、それと同時に、空間をあけたり詰めたりして『間』を調整するという意味もあります。「枝間があきすぎる」とか「詰まりすぎる」という表現を聞いたことがあるでしょう。結局、枝操作とは空間の操作に他なりません。
試しに、樹形構想や枝の選択をする際、どこに枝がほしい……という考え方を、どこに空間をあけようか、という考え方に一度変えてみてください。そうすればきっと空間の持つ意味が分かるでしょう。枝振りだけでなく、空間を見せるということが、少しでも実感できると思います。
盆栽はたて・横・奥行を持つ三次元の立体です。さらに時代という要素が上乗せされますから、実際には四次元の芸術品ということができます。枝操作によって四次元空間を操る盆栽は、まったく他に類を見ない特異な世界です。これは誇りに思っていいのではないでしょうか。